ディレクター南貴之が熱意で口説き実現した、世界に誇る日本発スウェットブランド、ループウィラーとのコラボレーション。人気のオーバーサイズのスウェット「LOOPWHEELER for Graphpaper」誕生までの裏話を前後編、全2回に渡ってひも解きます。
後編は、ループウィラーの物づくりと2020AWの新作について
<前編はコチラ>
昔ながらの吊り編み機で、ループウィラーやGraphpaperの丸胴Tシャツのシリーズの生地を作っているカネキチ工業。
ーーループウィラーと言えば、吊り裏毛ですが、吊り編みにこだわる理由はどこにありますか?
鈴木諭(以下、鈴木):吊り編み機で編んだ生地しか使わないブランドなので、それがまず条件。元々の植物である綿花の状態が100のパワーだとすると、糸にした時、生地にした時、80、70とどんどん素材本来の持つ力が減っていく中で、できるだけ減らさないように編める、減り方が一番少ないのが吊り編み。綿が中に内包してる空気をなるべく潰さないように、ゆっくり優しく、テンションをかけないで編むから、その分時間もかかるけど、出来上がったスウェットは、裏毛がフワッと柔らかく洗濯をたくさんしてもへたりにくい。吊り編みにこだわるのは、原料の能力、特性を最大限に生かした編み方だからです。
南貴之(以下、南):ただ現状は吊り編みの機械ってほとんどなくなってきているんですよね?
鈴木:新しい機械は作られてないので、南さんも行かれたカネキチ工業に稼働しているのが90台強で、他に180台ぐらいストックがあります。もう一つの和田メリヤスもほぼカネキチさんと同規模だから、二つ合わせて、稼働しているのは150〜200台ぐらい。吊り編み機の構造上、天井の梁に取り付けるのですが、鉄の梁だとものすごい振動でまともに生地を編めない。だから木の梁でないとダメなんだけど、1台80キロある吊り編み機を、仮に30台吊れる工場を建てたら、一体どれだけのコストがかかるか。となると工場を建設して、今余っている機械を稼働させたとして、職人も育てて、健全な会社経営ができるかというと、そんなに簡単にはいかないですよね。
南:機械と建物の問題もありますけど、吊り編み機自体を動かす職人さんも誰でもいいわけではないように思います。
鈴木:カネキチさんに関しては、今の社長の南方(仁太郎)君以下、世代交代が行われて完全に若返りました。ようやく10年かけて、なんとかこの先、20〜30年やっていけるところまでになった感じです。南方君はループウィラーの千駄ヶ谷の店で、2006年〜2010年まで一緒に働いていたんです。彼がまだ20歳の頃に出会って、当時は飲食店でバイトしていましたが、これから家業を継ぐにしても、東京の空気を吸った方がいいし、どんなマーケットがあるのか理解してからの方がいいと思うから、よかったらうちにこないかと誘ったんです。彼のお父さんに、息子さんを僕に預からせてくださいと頼んで、4年半くらい働いてくれました。僕らと仕事をすることでいろんな取引先と顔が繋がって、東京のアパレル業界や洋服がどういうものなのかわかったと思います。その彼が若い職人を育てて自分のチームを作ったのがここ5年の話です。
南:カネキチさんに行った時に、鈴木さんのことを師匠と呼んでました。
鈴木:僕らは全て自分のオリジナルを表現するというよりは、お客さんのやりたい方向をアウトプットさせなきゃいけない。やはり日本の洋服の文化は、原宿、青山がずっと牽引してきているのは、紛れもない事実だし、そこには面白い人がいっぱいいるから、そういう人たちから何かを吸収して、学んでから、次の自分の仕事に生かすことができないとやっていけないよと、最初の頃、彼には強く言っていました。
南:そのせいか他の工場さんとは違うインシアチブがある気がしますね。
鈴木:ここから先、彼らが日本を代表するニッターとして、いろんな国内外のクリエイターとちゃんとコラボレーションできるようになってくれたらと僕は期待しています。
ディーター・ラムスをテーマにした2020AWカラーのブラウンと新たな定番カラーのグレー
ーー話は変わりますが、2020AWシーズンのテーマは、インダストリアル・デザイナーのディーター・ラムスで、スウェットでもブラウンやグレーなど、ループウィラーにはないカラー展開でした。率直に、Graphpaperとのコラボレーションはいかがですか?
鈴木:僕にとってのファースト、ディーター・ラムスはブラウンの髭剃りですが、彼のデザインコンセプトから引用したカラーを作るのは楽しかったですね。南さんと一緒にやらせてもらう上で、僕らからは出てこないなんとも言えない微妙で絶妙な色合いは、一番面白いところでもあるし、勉強になります。同時に、お客さんにとってもループウィラーにはない色がGraphpaperに行けば買えるというのは楽しいと思いますよ。
南:僕も洋服自体はベーシックでシンプルなものが好きなので、毎シーズンで自分の中の気分を表現するとなると、色がベースになるんです。大体デザインのインスピレーションとなるのは、建築やアートだったり、僕が好きで影響を受けたものなので、その色をどうやって出すかというのが、最初に行う作業です。ループウィラーさんは作るのに時間がかかるので、真っ先にコレクションの色を伝えて、ホットなタイミングの時にやっていただいています。
Graphpaperは曖昧な色が多くて表現が難しいみたいで、僕が出したい色は、他の生地屋さんだと結構やり直しが多いんですが、鈴木さんのところは一発で仕上がってくるのでさすがです。僕らでもこれはなんて形容したらいいんだろうという色が多いぐらいで、このなんとも言えないブラウン、めちゃくちゃ可愛いですよね。
”LOOPWHEELER” for GP Raglan Sweat
鈴木:うちがというよりは、お願いしてる大阪の飯田繊工という染め屋さんが優秀なんです。ここではブラウンですけど、僕より後ろで動いている人は全員パンプキンで指示してます。
ーーコラボシリーズとループウィラーのオリジナル商品ではエンドユーザーが違うこともあると思いますが、その点については意識していますか?
南:僕はとにかく迷惑をかけないように心がけてます。一度お願いしたからには、長くご一緒していきたいし、Graphpaperというブランド自体も鈴木さんのブランドのように続けていきたいというのがあるので、ループウィラーの名を汚さぬようにしなければという思いです。
鈴木:確かにマーケット的には全然違うけど、本質はすごく似てる気がします。多分、Graphpaperを買いたいと思うお客さんは、南さんの頭の中なのか、心の中なのか、やりたいことなのかを、何かしら好きで、知ってみたいし、共有したいし、共感しているんだと思うんです。南さんほど体は大きくなりたいとは思ってないだろうけど(笑)。南さんがディレクションする服を着ることがうれしかったり、楽しかったりするんじゃないですか。
だから、南さんが素材の説明をしたら、それにきちんと反応する人たちなので意外に共通項はあると思います。表現が少し違うだけで。そういう人が、ループウィラーも好きだけど、南さんの服や考え方に共感してGraphpaperの服を買うという。その相乗効果で、より買っていただけているということを僕らも感じています。だから、なるべく展示会にお邪魔して、他にどんなものを作っているかを拝見し共有することで、パターンを作る時に反映していきたいと考えています。
ーー最後に、南さんにとってループウィラーとは、鈴木さんにとってGraphpaperとはどんな存在なのでしょうか?
南:ループウィラーさんは、僕にとって特別なんですが、特にすごいと思うのは、一つのことをずっとやり続けていく上で、現場の方からお客さんにまで、一貫してブレずに伝わっていることです。それを実感したのは、ループウィラーさんの20周年記念本のリリースイベントをヒビヤセントラルマーケットでやらせていただいたときで、僕はお客さんの整理を担当したんですけど、来場する人が全員ループウィラーの服を着ていて、当然、鈴木さんのこともみなさん知っていて、それに感動してしまったんです。モノの良さはもちろん第一にあるんですが、それ以上に、洋服だけではない20年続けてこられたという、音楽でいったらグルーヴといいますか、連帯として周りの人たちが醸し出す一体感というか、すごく勉強になりました。僕らもこうならなきゃいけないと、背筋が伸びる感覚がありましたね。そこに僕らも参加させていただいているという。
鈴木:一緒に仕事をするようになって、南さんが着れるようなものを作っていかなきゃいけないという流れの中で、僕らもインラインではできないようなものにまで幅が広がり、ある種、うちのサイズでカバーできなかった人たちとか、南さんのコンセプトやクリエイションに共感する人たちが結果、LOOPWHEELER for Graphpaperを買って下さっているという意味ではありがたいと思います。今後もお客さんがワクワクドキドキする、着たいな、欲しいなと思うようなものを継続して作り続けるというのが、僕らの使命というか、やり続けていきたいと思っています。それに南さんの頭の中も覗いてみたいですね。
南:ありがたいお言葉! 僕らも頑張ります。
”LOOPWHEELER” for GP Sweat Parka
”LOOPWHEELER” for GP Full-Zip Parka
LOOPWHEELER<ループウィラー>
http://www.loopwheeler.co.jp/