2020FWシーズンのテーマである、インダストリアル・デザイナー“ディーター・ラムス“に着想を得て、ミズノのテクノロ ジーを搭載したスニーカー「WAVE PROPHECY LS」の別注モデルを製作。コラボ秘話から機能、デザインの細部のこだわりまで、ミズノ グローバルフットウエアプロダクト本部企画部 齊藤健史 氏とディレクター南貴之が語り合います。
ーー今回のコラボレーションのきっかけは?
南貴之(以下、南):ずいぶん前にミズノさんが「MOUNTAIN RESEARCH」の小林(節正)さんと革靴を作っていて、それはアッパー部分が革でソールがPROPHECYみたいで、すごいと思ったんです。それを僕はいまだに持っているんですが、ソールに穴があるデザインが好きで履いたときのクッション性もよかった。革もミズノのグローブの革を使ってて、クソ重たいんだけど。
齊藤健史(以下、齊藤):それはWAVE PROPHECYの前身のWAVE CREATIONというカカトにしか穴がないソールなんですよ。当時、ウェーブプレートというのがウリでしたが、これをダブルにすることによって、よりクッション性と安定性が上がった。ミッドソール材は長時間使用しているとへたってクッション性が低下するんですが、ミッドソール材が少ないので長時間履いても購入時のクッション性が持続しやすいんです。 八の字に見える、耐久性があるということから弊社ではこれをINFINITY WAVEと呼んでいます。
MOUNTAIN RESEARCHとのコラボモデルが重たい理由は、普通のなめしではなくてグローブ用のレザーだからオイルをめちゃくちゃ入れているんですよ。そのぶん撥水とか耐久性はいいんですが、もともと油分が多く含まれる分、確かに重くなっていましたね 。グローブのレザーを使うというのが、”お互いの良さを引き出すための小林さんのアイデアだったようです。
南:僕はそれにまんまとやられてしまい。その後、何かのきっかけでミズノさんの展示会に伺うことになり、このPROPHECYのソールが進化してて、超絶かっこいいと思いました。会場で僕にはこれしか見えてなかった。
僕らもミズノさんも日本のブランドだし、一緒に何かやりましょうと話をしていて、ならWAVE PROPHECYで、ということになったんです。2年ほど前に、2020年秋冬は、ディーター・ラムスをコンセプトに作ると決めていたので、そのタイミングで。他とやっている別注も見せてもらいましたが、色も被んないし、いろいろ融通を聞いていただきました。
ーーデザイン的な面でこだわったポイントは?
南:とにかくほぼ“なし”というか、ディーターのテーマは、「less, but better(より少なく、しかしより良い)」ってことなので、表側にはマークやデザインなど目立つ要素をなるべく排除したかった。本来ならマークがドーンと入ってたり、ヒールやソールなどのパッチには「WAVE PROPHECY 8」というモデル名が入っていたり、ミッドソール自体の機能材やソールのINFINITY WAVEというネームが入っていたりとか。そもそも、このパッチはそういう役割のものだったんですが、それをなくしてもらって。
ただ、ディーターのプロダクトは、重要なボタンだけ、赤やオレンジ、緑というように色を変えるんですよ。だから、パッチの色だけ変えて、デザインの重要なポイントを表現してます。1箇所だけ潰れない程度の最小限のオリジナルのサイズで、ブランド名を入れさせてもらってます。Graphpaperとミズノさんのコラボレーションだというのが一応、このマークで分かるという。
ーー確かに、ものすごく小さいですね。
南:出来る限りミニマルがいいんですよね。アッパー部分の素材もスピーカー表面の鉄のメッシュと同じような感じをお願いしたところ、探してくれた素材がすごくよくて。
齊藤:いろいろ探して、結局落ち着いたのが、いわゆるマラソンや駅伝選手のスニーカーのパーツ用に作っていた素材です。それは逆に言えばミズノには内製できる開発部隊がいるので、独自のアイコニックなメッシュをデビューさせるタイミングでもあった。実はこれも漁網のメッシュから着想を得てるんです。いわゆる投網漁って投げる時はフワーッと伸びて広がるけれど、引っ張りあげる時は、そこまで伸びたらダメじゃないですか。漁網を解体して、一方向には伸びるけど、もう一方は全く伸びない異方性をもつという構造を追求していき、こういう意匠になりました。最初は伸びるものも使っていたんですが、伸びると今度はシワができてしまうので、これは完全に伸びないタイプなんですが、それがすごいハマったというわけです。他のスニーカーよりも型崩れしないので変な負担や足のぐねりもなく、見た目を追求しましたけど、履き心地も確かです。
南:それは僕も知りませんでした。僕は表面的なデザインのことしか考えてなかったんで。完璧にディーターのスピーカーだと思って(笑)。
齊藤:こういうコラボレーションを通じて、ミズノのかっこ良さをちょっとねじ込んでいくというか。歴史もありますし、内製した開発もしているので、自分たちのオリジナルとはまた違う形で世に出していくことが、僕の一番やるべきことのように思っています。
ーー大事なモデル名が小さくなったり、素材名が消されてしまっても?
齊藤:いいんです(笑)。それも含め、こういったお取組みを通じてミズノの新しいかっこ良さを表現させていただくことが目的なので。
南:コンセプトなので仕方がない(笑)。それはオリジナルのほうでやっていただいて、僕らは僕らのプロダクトとしての考え方で表現する。洋服では落とし込みに限界があるんだけど、靴は電化製品のようなプロダクト寄りなので、いろいろとやりやすい。
ソール構造の一部を透明にしてるのは、オーディオセットの上に被せてある透明のアクリルカバーのイメージです。Graphpaperの洋服に透明な素材を使ったら、僕の思う服ではなくなってしまうので、だからスニーカーで使えたらなって。
ーースニーカーを通じて、存分にディーター・ラムスの世界を再現できたということでしょうか?
南:僕的な意味で切り取りました。あとはWAVE PROPHECY自体が、要は、機能から生まれたデザインだと思うんで。
齊藤:本来在るべき姿というか。機能から出来上がった形なんで、印字などは後付けのデコレーションで、本来はディーターと同じなんです。そんな多くを語らなくていいみたいな。この機会に、余計なものを削ぎ落として、コアとしてかっこいいものに昇華していただいた感じですね。
ーー南さんの要望に応えるのは大変ではなかったですか?
齊藤:僕も大学は建築学科で、ディーターもそうですが、インテリアやプロダクトデザインが大好きなので。まずGraphpaperさんとご一緒できると聞いて上がり、テーマがディーターでさらに上がりました。でも、彼のデザインはそもそも水平直角が基本的なので、PROPHECYの有機的なフォルムをいかに隠し、レス(Less)にしていくかが課題だったんで、メッシュの部分は色を変えて、隆起的なラインは同系色にして馴染ませるということを提案させていただきました。
ーー素材や仕様は齊藤さんからのご提案だったんですね。
南:もちろん。色味など、こういうイメージでこうしたいっていう点は明確に伝えてますが、どの素材でどう作るか細かいことは僕らは分からないから、そこは完全にお任せしました。
齊藤:オレンジのポイントの部分が結構難しかったんですよ。カカトはちょっと入れすぎかとも思いましたが、意外とありだねって言っていただけたんで。ソールの内側が透明なんですけど、部分によってオレンジが透けるところと、黒が透けるところ、何もないところとで表情を出したり。ディーターの世界観をまるまる入れると、全部つるっとしたデザインになって、構築的過ぎてしまう。だけど、靴となると、やはり履きやすさ、足に馴染みむ縫い方にしなければいけないので、僕の独断でしたが、「トゥだけスエードにしませんか?」ってご提案しました。その方が秋冬っぽいし、黒と合わせやすくなりますと。
南:確かにスエードのほうが高級感も出るよね。
ーー他にはどんな点にこだわりましたか?
南:紐をいっぱい付けてもらったんですよね。「紐って付けれます?」って(笑)。人によって色を変えれたら面白いじゃんって思ったから。どの色も魅力的な場合、結局、選べないし。
齊藤:しかも、先端にメタルが付いているんですよね。これも実はちょっとでも大きいのを付けちゃうと穴に入らなくなっちゃうんで、最後にかなり難航しました。
ーーそれもディーターのデザイン要素としては重要なポイントだったんですね。
南:だいたい部品は金属なんで、金属的な要素がどうしてもほしくて。でも使える所がシューレースのチップしかなかった。僕は何でも言ってみて、できないものはできないって言われちゃうんだけど、齊藤さんは、本当に結構何でもやってくれるから。
齊藤:僕が「NO」って言ってしまうと、コラボレーションの意味がないので。ミズノがさらに新しい所へいくには、今までやってない、前例のないことにも挑戦しないと次にいけないですから。
南:BRAUN(ブラウン)やVITSOE(ヴィツゥ)とディーターの関係性は同じで、メーカー側とデザインする側。そこでお互いが一番のものを出し合って製品が生まれていると思うので、僕たちも同じ関係性で今回やらせてもらったというか。
齊藤:楽しかったです。自己満足だけでやってるわけではなく、公的にディーターを使える。逆に受け入れてもらわなくてはならないプレッシャーはありましたが、自分が考えるディーター・ラムス像を自分の作った靴に落とし込めるというのは良かったです。
ーーまさにWin Winなコラボレーションですね。
南:もちろん。ただ売るためだけだったらやらないし、やってる人が上がってくれないとお客さんにも伝わらない。僕らがどうかな?って思ってるものなんか、絶対売れないと思うし。そんなもの見せたくもないからね。
MIZUNO WAVE PROPHECY LS for Graphpaper
PRICE:¥32,000
COLOR:GREY / ORANGE / BLACK
SIZE:23~30cm
展開店舗:Graphpaper Framework、Graphpaper AOYAMA、Graphpaper HIBIYA、Graphpaper SENDAI、
Graphpaper KYOTO他、全国のGraphpaper取り扱い店舗及び、MIZUNO TOKYO、MIZUNO OSAKA CHAYAMACI
※一部取り扱いのない店舗もございます。
※お一人さまにつき1足のみのご購入とさせていただきます。
※オープン前に並びが多数出た場合、店内混雑時は整理券を配布する可能性がございます。予めご了承ください。
※オンラインショップでの発売は9月28日(月)以降とさせていただきます。