2021SSの新作ジャーマントレーナーをはじめ、数シーズンに渡りコラボレーションしている「REPRODUCTION OF FOUND(リプロダクション・オブ・ファウンド)」とGraphpaper。ディレクター南貴之が共感した「見つけ出し再現する」というブランドコンセプトと彼らの一貫したモノづくりの姿勢に迫ります。
ーーリプロダクション・オブ・ファウンドを知ったきっかけは?
南貴之(以下、南):最初はパリだよね。
リプロダクション・オブ・ファウンド(以下、R):数年前にMAN Paris(国際ファッション展示会)に出展したことがあり、そのとき僕が外で休憩していたら、たまたま横に南さんが座っていて、靴を作ってもらえるかどうかと尋ねられたのが始まりですね。
南:僕はてっきりブランドの人でなく、海外のファクトリーの日本の代理店の人が売りに来てると思ってて、よくよく話を聞いたら自分たちでやってますって言うので「何それヤバイじゃん、かっこいいじゃん」と。そのときちょうどスニーカーを作りたいと考えていて、いろいろ見て回ったり、工場を探したりしてたんです。でも、なかなかいいのがなくて、結局どれも偽物で何々風のしかできないじゃんと思っていたところに、「リプロダクション・オブ・ファウンド」を発見し、この人たちと何か作ったらちょっとヤバイんじゃないかと、そこからです。
ーーどんなところにヤバさを感じましたか?
南:商品全てをスロバキアやルーマニアといった軍物スニーカーのオリジナルをもともと作ってたような工場を掘って、わざわざそこで製造してるというところが一番僕的には響いた。多くの場合、“それ風”のものを中国とかで作っているのがほとんどで、単純にただヘタなんだよね。
R:なぜなのかはまだ解明しきれないんですが、素朴な雰囲気や繊細さは今自分たちが使っているルーマニアやスロバキアの工場でないと出せない味なんです。中国や他の国の工場でも同じものを作って結構いろいろテストしましたが、やっぱりそこが一番でした。
今の工場以外でもミリタリーのスニーカーを過去に作っていたという工場がヨーロッパにはかなりあって、そういうところをたどり、出張のときには立ち寄ってリサーチしています。ジャーマントレーナーも何社か作ってたようですが、それでもやっぱりスロバキアの今の工場よりも、ぐっとくる仕上がりにはならないんです。同じ素材やパターンを使っても、これはもう言葉ではいい表せないフィーリングの違いだと。南さんが作っている服でも同じようなことが言えると思います。Tシャツは多分どこでも作れるけど、やっぱりそこじゃないとできないものがあって、そういうとこにこだわるというのは、通じる部分があるのかなと感じます。
南:好みの問題もあるからね。
R:自分たちはこれがいいと思っていますが、もっと安くて中国で作ったほうがいいという人もいるかもしれない。
ーーそもそもなぜミリタリーシューズをリプロダクションするブランドを立ち上げようと思ったのですか?
R:20代から10数年間、ヨーロッパの古着を扱うセレクトショップで古着の販売やバイイングを担当していたこともあり、ミリタリーものを仕入れるために、ヨーロッパを中心に世界中の倉庫を回っていました。その時にいろいろな国の軍隊の靴を見てきて、ディテールは面白いけど汚かったり、サイズやバランスがよくなかったり、ネタは面白いのに売るとなるとなかなか難しいと感じていました。そのことをずっと思っていて、それなら自分たちで現代的にアップデートしたものを展開する、一つの靴のブランドにしたら面白いんじゃないかというのがスタートです。やっぱり靴が好きだし、靴に特化してアップデートするブランドは、まだ世の中にないと思うから、自分たちでやったらどうなるんだろうというちょっとワクワクするようなコンセプトだったので、まずは足を踏み入れ、腰を据えてやってみることにしました。
ーーでは、Graphpaperと初めてコラボレーションしたアイテムは?
南:一番最初にコラボしたのは、「ZDA」だったよね。
2018SS Collection / ZDA for Graphpaper “Marathon Trail”
R:二つブランドをやっていて、一つは「リプロダクション・オブ・ファウンド」というミリタリーがコンセプトのもので、もう一つが、80年代ぐらいまであったスロバキアのローカルブランド「ZDA」です。これはリプロダクション・オブ・ファウンドを立ち上げるときに、今使っているスロバキアの工場がZDAの商標と過去に作った経験や設備を持っていたこともあり、オーナーにやってみたらと勧められ、資料を見たら、なんとも言えない、いなたさがあって、それで二本柱でやることにしたんです。南さんとは最初にこのZDAでコラボーションしました。
南:いなたいというか。ダサいんだよね、2018年SSシーズンに初めてZDAでコラボして、その後いくつかのモデルで別注をさせてもらってから、2020年SSでいよいよジャーマントレーナー。今回の2021年SSで2回目です。最初はコレクションテーマだったミニマルアーティストのカール・アンドレの作風をイメージして、シルバーラインを入れたりしました。今季は、イサム・ノグチをテーマにしています。
でも、いまだにファーストコラボのZDAを履いてくれてるお客さんがいるんで、それが嬉しい。何ていう表現のスニーカーなのか、単純にローテクなんだけど、下手したら、おじさん向けの安売り靴屋で投げ売りしてそうな感じもあってギリギリの線なわけじゃないですか。それを真面目に作っているのがすごいよね。
R:しかもそもそも「ZDA(ゼットディーエー)」ってなんなんだっていう。そういう靴なのにわざわざイタリアからいい材料を取り寄せて作っています。オリジナル自体は粗悪なので完成度を上げるためには材料が重要です。デザインの雰囲気は当時のままで、カラーリングは自分たちで決め、材質を変えてシューレースも200年もの歴史があるチェコのメーカーに綿100%の細い紐を作ってもらっています。アウトソールはチェコスロバキア時代から今もある、一時期はマラソン選手用にも使われていたというオリジナルの型をそのまま使い、いいところは今も採用しつつ、ギリギリのところを残してアップデートしています。
例えば、これはルーマニア製のいわゆるヴァルカイズドというコンバースやバンズなどの元ネタになっているモデルで完全にハンドメイド。工員のおばあさんがラバーをカットしてるんですが、そのヘタウマ感を受け入れるか受け入れないか。やっぱりここにしかない良さがあって、通常だと天然ラバーの含有率は20〜25%ぐらいで長く履いているとソールが割れてきてしまうけど、ここは天然ラバー80%でラバー自体がすごくしなやかで履き心地がいいんです。さらにEVAのクッション性の高いミッドソールを使うなど、ラバーのクッション性やインソールを自分たちでちょっとアップグレードしています。
2019AW Collection / REPRODUCTION OF FOUND for Graphpaper “US Navy Military Trainer”
南:それがすごいよね。ローテクって長時間ずっと履いているとすごく足が疲れるから、もうバンズとか僕は無理なんだけど、これはインソールがしっかり入っていて履きやすい。
R:その調合をできるのは、やっぱり今使っている工場だけなんです。ラバーのクオリティや技術的にうまいところはたくさんありますが、なんとなくこの雰囲気は出せないというか。ただインソールに関してはうちから依頼しました。南さんがおっしゃった通り、朝から履いて午後1時ぐらいには疲れてしまうので、結局履かなくなってしまう。そういう問題点を解決できるように考えてほしいと伝えたら、工場側からインソールをこういう技法でやってみましょうと提案をもらって。
南:これはやっぱり発明だね、履くと一発でわかる。
ーースロバキアの工場には、そういった確かなノウハウがあるんですね。
R:そうですね、工場のオーナーは素材を研究するのが好きみたいです。オーナーは途中で替わってますが、工場には歴史があって、当時はヨーロッパの有数なスポーツブランドの生産を請け負ってたという経緯もあります。ただ、そこからあまり設備は進化しないままで、たまに新しくしようとするんですけど、うちのブランド的にはオートマティックでなく、ハンドステッチが好きだからやってもらっているので、今のままで作ってほしいと話しています。ブランドを初めて6年目になりますが、自分たちは古き良き当時の匂いを守りつつアップデートしたいと考えているんです。決して安価なスニーカーではありませんが、そういうちょっとした違いを楽しんでもらえたらなと思います。
ーーそして、今季コラボしている、ジャーマントレーナーにもそのちょっとした違いが込められているんですね。
南:ジャーマントレーナーって、ヘルムート・ラング(Helmut Lang)も作っていたり、90年代に流行ったルーディック・ライター(Ludwig Rieter)という老舗ブランドも当時リプロを出していました。ジャーマントレーナー自体、僕の中では普遍的で完成されたスニーカーのデザインなんです。だからGraphpaperでの別注は後のほうまでとっておこうと思い、ここに行き着くまでにそれ以外のちょっとクセのある変わり種から始めていきました。いじるからにはそれなりの覚悟がないと難しいので、あえて避けてたっていうところもあるけど。
それに完成されたデザインはいじる必要がなく、これを変にいじってしまうと途端に要らなくってしまう。やれることと言えばソールの色を変えるぐらいなんだけど、そうなるとロットがかなり必要になってくる。だから、ある程度お客さんが慣れてくれてからやろうかなと思ってました。今回はオリジナルのカラーリングのソールにしてもらって、あとは配色をちょっといじるぐらいでなるべく余計なことをしたくなかったから、それだけにすごい難しかった。
ーーその難しい中で、どこにどうGraphpaperらしさを盛り込みましたか?
南:大きくは、まずソールを別注カラーでやってもらったというのと、細かいところでいうと、ライニングとインソールの色。あとは全体的なカラーの組み合わせをGraphpaperのシーズンテーマを反映させたグレーにしました。
R:別注モデルについては、ソールの色出しが一番大変でした。しかもチャコールグレーでって頼まれたわけではなく、カットピースを見せられ、このグレーを出してくれっていうから、ソール屋さんはソール屋さんでそれ染めなきゃいけないので、南さんのイメージするチャコールグレーに乗せて作るのは、かなり大変でした。元々が完成されているデザインなんですが、南さんとコラボレーションすることで感じたのは、結構ギリギリのところでうまく差別化されているなと。作っているときはよくわからないけど、展示会にうかがってコレクションをトータルで見ると、なるほどそういうことだったのか、ということがよくあります。
ーーそんなに完成度の高いジャーマントレーナーをどのようにアップデートしたのでしょう?
R:当時の軍用のものはクズ革を固めて表にフィルムを貼った革を使っていて、履き口もちょっと起毛したファブリックだけど、シンプルなデザインなので素材の質感に一番こだわりました。ベースの革はイタリアの柔らかいナッパレザーを取り寄せ、トゥにはカウスエードを使い、ピッグレザーのライニングをドイツから取り寄せて作っています。
南:それはGraphpaperも同じ考え方だね。普通のものを作るのに、ちゃちい質感だったら既にあるものでいいもんね。
R:いろんなブランドさんがこれを元ネタにしているので、どう自分たちなりにアプローチできるか。他にもたくさん品番はあって、アイテムによっても考え方は違いますが、特にジャーマントレーナーは素材に一番こだわって作っています。
南:やっぱり完全なる定番の靴なんだよね。でもこうやって素材の質を上げていくだけで
基本のデザインがいいから、何ていうか、ちゃんとして見えるよね。どんな服にでも合う気がするし、みんなが、特にヨーロッパの人がこれを作る理由がわかる気がする。
ーーところで、発見し再現する際の決め手のようなポイントはあるのでしょうか?
R:ネタはたくさんあるんですけど、今の工場で作ってみてどうなるかはわからないので、いくらネタがよくても工場の技術とフィットするかしないかが重要ですね。最初はドイツ、フランス、イギリス、カナダの4ヶ国のミリタリーシューズからスタートしたのですが、気付いたらとんでもない数に増えてしまいました。でも国にこだわっているというよりも、形やデザイン重視なので、今はもう2000年代のものを探して作ったりしています。
ーー年代にこだわっているわけでもない?
R:そういうアプローチの仕方もありますが、そこにはこだわってないです。ヴィンテージだから価値があるということにはあまり興味はありませんね。
南:どうやって再現していくかであって、復刻ではないからね。
R:いかにヴィンテージルックに近づけるかをウリにしてなかったので、当初はオリジナルを見せて比べさせてくださいと言われることもありましたが、そういうことではないんです。何を発見し、自分たちなりの解釈でどうできるか。自分たちで知りうる限りのアイテムに適した素材を厳選して、このシンプルなスニーカーに注入しているということです。
南:ともすれば、スニーカーってハイテクな雰囲気になりがちじゃない? ミズノのウェーブプロフェシーなんて最新テクノロジーが結集されたもので、いかに早く走るか、いかに軽いかとかいうものであって、そういう正反対のものがGraphpaperの中にあるのが面白いなと思っていて。ジャーマントレーナーの雰囲気をミズノに作ってと言っても無理だし、やってほしいとも思わない。このアナログ感はどうしてもリプロダクション・オブ・ファウンドじゃないと出せない。
男の人のファッションというか、僕のファッションの概念は、ベースの服があってそれをいかに現代の都市生活で使いやすいものに変えるか、素材をアップデートしてみたり組み合わせを変えてみたり、国の関係性をエディットとして混ぜてみたりとか、そういうことなので、足元は結局、ハイテクかローテクか、あるいはダサい靴。別に他にはいらないから、ローテクはこっちで作って、ハイテクは向こうで作るという、そのミックスが面白い。実際、僕もそれしか持ってないし、基本的に中途半端な靴は履きたくない。
ーー初代コラボのZDAのようなダサさは、今の感覚では生み出せないものなんですね。
南:出せないでしょ。当時の時代感もあるし、その国で作るからこそのものだから。
R:パリで初めてお会いしたときの会話も、俺にもダサい靴作ってくれない?でしたもんね(笑)。南さんなりの褒め言葉なのだと解釈しましたけど。
南:褒め言葉ですよ。僕は海外に買い付けに行っても、ダサいものを探してたりすることもあるから、いつも「だせえっ』て言ってて、もし日本語がわかってたらきっと怒ると思う(笑)。ダサさって、やろうと思ってできるものではないし、僕は振り切れたものが好きですから、どうしてもそうなりますね。
3月13日(土)発売 REPRODUCTION OF FOUND for Graphpaper German Military Trainer
<プロフィール、ブランド紹介>
REPRODUCTION OF FOUND
見つけ出す:FOUND、再現する:REPRODUCTIONをコンセプトに2016SSよりスタートしたブランド。ミリタリートレーナーシリーズは1950年代~1990年代にかけて数多くの軍用トレーニングシューズを生産していた各国のファクトリーで、ひとつひとつ丁寧にハンドメイドで生産されています。ロゴやタグには品名、国名、年代を記載しデザインソースを明かしています。ミリタリーアイテムを中心に時代を超えた普遍的なアイテムを見つけ出し、現代的に再現させてリリースしています。