2016年にファーストコレクションを発表以来、
とりわけ豊富なバリエーションでリリースされ続けているのがシャツだ。
毎シーズン、微細なアップデートを繰り返しながらも、
できるだけ姿や着心地をそのままに保ち、展開し続けている。
今回の「プロダクション ノーツ」は、
ブランドの中核を担う、定番シャツについて。
洗いざらしでバサッと羽織れる、
それが南貴之の考えるメンズの定番シャツ。
ー今回は定番のシャツについて伺います。
南:「メンズの定番とシャツとは?」って自分なりに考えてみると、洗いざらしでバサッと羽織れるシャツかな。僕はネクタイを締めたくなくてこの業界に入ったのでドレスシャツじゃないし(笑)。それで、シャツではあるんだけど、羽織りに近いというか。そんな考え方で作っています。
ーゆったりとしたビッグシルエットが特徴ですが、それは“羽織り”的な考えからなんでしょうか。
南:それは、人と服の間に余白をつくりつつ、いろいろな年齢や体型の人に対応していかなきゃいけないっていうのがあって。で、初期作ったのがこのレギュラーフィット。最初はこれでも大きいって言われて、小さいサイズばかりが売れていました。僕はサイズ2や3が売れるだろうと思って作ったんですけど。
南:その頃は、3っていうサイズが一番大きかったんですが、僕には小さいというか、普通すぎる感じだったので、さらにオーバーサイズを作ろうということになったんです。それで、自分のサイズを採寸して作ったら、知人、友人たちが「このサイズがいい!」って言い始めて。じゃあこれで展示会に出そう、ということになりました。
高級シーツにも使用されているスーピマコットンの200番手双糸で製織したブロード生地のレギュラーカラーシャツ。適度なハリがあり、着心地は滑らか。ボックスシルエットのレギュラーフィット。
ーバイヤーたちの反応はどうでしたか?
南:細身の人が着ても可愛いよねっていう評判で。僕は、落ち感のあるメンズ服が好きなんです。グラフペーパーの服は肩の傾斜が強めについていてドロップショルダーになるので、細身の人でもサマになるんだと思います。その後に、痩せてる人が着たときのことをより意識してパターンを調整しました。第1ボタンを開けた時、やや背抜きになるような重心とか。あと、僕のサイズのままだとネック寸法が大きすぎるからそこも修正しています。
ーサイズバリエーションではなくパターン違いの新しいシャツが増えたわけですね。
南:現在はブロードシャツのレギュラーサイズが1と2と3、オーバサイズが1と2の5種類、オックスフォードシャツのレギュラーサイズが1と2、オーバーサイズがONE SIZEの3種類のフィットで展開しています。シャツのフィットは、色々ある中から選べる方が楽しいかなと。そもそも体型が大きい人に対応するって意味合いもありますが、細身の人も大きいのが着たいなっていう人や、ジャストが好きだなっていう人とか、少しだけゆったりぐらいがいいなとか。気に入ったシャツを、シーンや気分、合わせる服によって選べるようにしたかった。だからサイズ展開も増えていくし、型が増えちゃったりするっていうね(笑)。
ーそれは買う側とするとありがたいです。
オーバーサイズのレギュラーカラーシャツ。生地はスーピマコットンの200番手双糸で製織したブロード。ヨークがたっぷりとられたバックスタイル。自然とネックが後ろ下がりになるような重心設計になっている。
南:そもそもなんでこういう服を作り始めたかっていうと、シーズン関係なく売るものを作ったからなんです。自分がコレクションブランドで買い物をした時、すごく気に入ったけど、次のシーズンにはもう同じ物はないっていうのがもどかしくて。だから、売れようが売れまいが、意地でも続けるって決めているんです。買ってくれた人がいるから。すごく気に入ってた白いシャツが汚れてきたから、新調しようって思ってくれた時に同じものが買えないは、デイリーウェアを提案するブランドとしてNGという考えです。
ー定番を突き詰めた結果なんですね。
南:“オーバーサイズのブランド”って思っている人もいるみたいなんですが、オーバーサイズのブランドではなくて、“定番のブランド”なんです。もちろん、体格の大きな海外のお客さまもどんどん増えているし、大きな人にも着てもらえるブランドなんですが、サイズ展開が豊富な定番として作ってて。あと、できる限り、品切れさせず、いつでもお店にあるようにしたいとも考えています。今はまだ在庫切れしちゃうこともたびたびあるのですが。ちなみに、東京の旗艦店「グラフペーパー東京」では、生地を選んでオーダーすることもできます。未だに2018年に作ったトーマスメイソンシャツが欲しいという方もいるので。南:定番とはいえ、常にいいもの、より良いものを提供したいので、毎シーズン、細かい部分の見直しについて話し合っています。その結果、前シーズンとまったく同じだったり、少しだけ変えたり。雰囲気が変わってしまうような変更はしませんが。例えば、ブロード生地は、最初は140番手双糸だったんですが、今は200番双糸です。ベッドシーツを纏って寝てるような感じで外に出たい、というのがコンセプトなので、肌触りをもっと優しく、もっとしっとり、と突き詰めているうちに200番手まできてしまいました(笑)。衿芯も硬くしてないです。
ー140番手でも「シルクのような滑らか」と表現されるほどなのに貪欲ですね(笑)。ブロードクロスのバンドカラーシャツ。襟型以外の仕様は、オーバーサイズレギュラカラーシャツと同様。前立てはフレンチフロント、バックにはサイドプリーツ。カフスはシングルで裾はラウンドテール。
南:オックスフォードも、いろいろと試行錯誤してたどり着いたのがこれです。ブルーとネイビーはちょっと特殊で、特に時間をかけて開発しました。最初は縦糸と横糸を同じ染色でやってみたんですがどうも思った感じにならなくて。これは縦糸の色が横糸よりも濃いんです。そうすることで、織り上げた時に立体感が出るようにしています。ネイビーは、縦糸がかなり深い黒で、横糸にネイビーを打っています。これも立体感を出すためですね。
ー生地だけでもかなり進化していますね。
南:ちょっとずつ、ちょっとずつ変更してます。それこそアップルの製品とかシステムみたいな感じで(笑)。でも以前と同じものが欲しいと思ったお客さんにも違和感なく着てもらえると思っています。前の方が良かったっていう方がいたら申し訳ないけど、こちらとしては、前向きにアップデートしています。
上/オックスフォード生地のバンドカラーシャツ。ブロードクロスと比べると光沢が抑えられていて、ややカジュアルな表情。レギュラーフィットとオーバーサイズフィットが展開されいる。写真はオーバーサイズフィット。
下/B.Dシャツはオックスフォード生地のみの展開。こちらはレギュラーフィットモデル。縦糸の黒い糸を使ったネイビーが独特。拡充を続ける定番シャツの
品質とバリエーション。
ー資料によるとブロードの定番シャツは、レギュラーフィットのレギュラーカラーシャツ、オーバーサイズのレギュラーカラーシャツとバンドカラーシャツ、ショートスリーブでオーバーサイズのレギュラーカラーシャツとバンドカラーシャツの5アイテム。フレンチフロントの前立てと、ラウンドした裾が共通。バックプリーツが、レギュラーフィットだけセンターボックスで、ほかはサイドプリーツとなっています。
南:レギュラーカラーとバンドカラーは基本的に襟型の違いだけですね。半袖に関しては一般的な半袖シャツよりも袖丈が長くて五分丈ぐらい。半袖シャツを着るのが気恥ずかしいのって二の腕が多く出て、少し子供っぽく見えるからかなと思って。大人向けというか、まぁ自分の好みなんですけど、袖を長めにしています。
長めの袖丈が特徴のショートスリーブシャツ。レギュラーカラーとバンドカラーがラインナップされている。
ーオックスフォードのシャツも同じく5アイテム。レギュラーフィットのB.Dとバンドカラー、オーバーサイズのB.D、プルオーバーB.D、バンドカラーです。こちらのディテールは、B.Dはブラケットフロントで、バンドカラーはフレンチフロントです。同じ生地ですが、仕様が違うんですね。前立てのアリナシでだいぶ印象が違います。
南:これは、もともとのスタートが違うアイテムなんです。B.Dシャツ、バンドカラーシャツ、それぞれが生まれて定番になって、少しずつディテールをアップデートしているうちに、お互い歩み寄って似ているという状況。今、改めてみてみると、オックスフォードのバンドカラーは前立てがあってもいいかも。いや、やっぱり印象が重たいかな。
B.Dプルオーバーはオックスフォード生地。オーバーサイズフィット。
ー南さんはオックスフォードのバンドカラーシャツがお気に入りだそうですね
南:ラルフローレンの古着で、オックスフォードのバンドカラーシャツがあって。“BIG SHIRT”だったか、“POST BOY”だったか。それを見た時にすごくいいなって思って作ったんだよね。そういえば、バンドカラーのオックスフォードシャツってあんまりないな、と思って。個人的に気に入っていて、こればっかり着てるんだけど……。前立て、あってもよかったなぁ。ブロードはない方がいいけど、オックスはあってもよかったかも。
ー新しいシャツが誕生するかもしれませんね(笑)。定番的にこれだけの種類のシャツを展開しているブランドはあまりないんじゃないでしょうか。
南:そうかもしれませんね。生地と型以外に、色のバリエーションもあるし、シーズナルアイテムも含めると相当なモデル数になりますね。僕が大きくなっていくのに合わせてどんどん大きなサイズも増えていくし(笑)。さらに、定番として、スーピマコットンを限界に近い密度で織り上げたハイカウントブロードのシリーズもあるんです。裾がスクエアでディテールがフレンチスタイルのシャツなんですが、その話はまた別の機会で。もう、いっそ「グラフペーパー シャツ」ってお店を作ろうかな。今は生地やサイズのオーダーだけにしているけれど、着丈も袖丈もネックサイズも、何から何まで全部オーダーできます、みたいな。いつかそんなお店を出したいですね。
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